ISSUE STATEMENT『TPP:「利潤か、いのちか」安倍政権はむき出しの市場原理の世界に、私たちの暮らしに必要なモノやサービスを放り投げようとしている』

 TPPは、すべてのモノの関税をゼロにし、各国の法律や制度などを「貿易障壁」として取り払う高度な自由化をめざす貿易協定である。この原則のもとでは、各国それぞれが歴史的・社会的な文脈の中で設けてきた各種ルールや規制は撤廃される。TPPとは、日米大資本を中心とした1%の利益のために、各国のさまざまなセーフティーネットを破壊し、99%の人たちの命と暮らし、雇用、地域経済、さらには主権さえも脅かす、民主主義への脅威といってもよい。

 日本の交渉参加前から、全国各地で農業、医療、雇用、地域経済、食の安心・安全など幅広い分野から反対や懸念の声があげられてきた。多くの人たちが、食糧自給率のさらなる低下や、日本が誇るべき国民皆保険や食の安全・安心の基準の緩和、雇用への影響、貧困・格差の増大などTPPのもたらす負の側面に気づき、いのちや暮らしに直結するものが市場原理で扱われることに反対し続けているのである。

 2012年末に行われた衆議院選挙において、自民党は「TPP絶対反対、ウソつかない、ぶれない自民党」というポスターを各 選挙区に張り巡らし、過半の候補者も「TPP反対」を掲げて当選、政権復帰を果たした。しかし、その数か月後の315日、安倍首相はその民意を無視し交 渉参加表明を行った。これは明らかに公約違反である。その後、「公約違反」との批判をかわすため自民党は衆参農林水産委員会での決議(いわゆる国会決議)を行い、「国益として守るべき項目」として、農産品5品目や自動車、保険、食の安心・安全などを挙げた。

 以来2年が過ぎたが、交渉は常に米国の政治日程の都合で推進され、「いよいよ妥結か」との局面が訪れては延期されるということを繰り返してきた。日本政府はすでに交渉全体のネックとなっている米国との二国間交渉で、先の決議にあげた重要品目を相当程度譲歩している危険性が高い。また知的財産権分野で先進医療技術の特許化や医薬品の特許強化について、日本政府もアメリカと歩調を合わせて主張しているとのリーク情報もあり 医療分野での営利化も懸念される。

 そもそもTPPは他の貿易協定と比べても極度の秘密交渉で、自民党の国会議員にですら内容が開示されない。そのため日本政府が交渉の中で何を主張しているのかすら知ることができない。この秘密主義そのものが民主主義の否定であることはいうまでもない。

 安倍政権の発足以来、国内においても数々の新自由主義政策が進められている。2013年に始まった国家戦略特区を進めるにあたり、安倍首相は「日本を世界で一番企業が活動しやすい国にする」と述べた。この目的はまさにTPPと相通じるものであり、米国からの強い自由化要求に加え、安倍政権自身が規制改革会議や産業競争力会議など、企業人や新自由主義を推進するエコノミストなどとともに、これらを進んでやろうとしていることは明らかである。

 TPP自身は、米国にとってはアジア太平洋地域における総合的な覇権を維持するために必用不可欠とされたものである。中国との対抗という意味でも米国にとって重要な戦略と位置づけられている。その上に、米国の大企業(とりわけ金融、保険、農業輸出分野)にとっては、金融資産を 多く持つ日本市場は恰好のターゲットとなっている。保険・金融、共済などの分野で日本の規制緩和を徹底して行い、その後に米国企業が多数進出してくるとい うシナリオはすでに準備されているといっていい。

 20156月、米国では大統領に貿易の権限を与える法案(TPA法案)が上下院で可決し、甘利大臣は「すぐに妥結」と発言している。しかし米国のTPA法案審議の中で明らかになったのは、共和党幹部と財界によるカネを駆使した策謀の姿だった。それらの最終目的は、日本の市場から奪いつくすことは言うまでもない。安倍政権はこうしたむき出しの市場原理の世界に、私たちの暮らしに必要なモノやサービスを放り投げようとしている。「利潤か、いのちか」という闘いとして、安倍政権に断固NO!を突きつける。